丸白音狐の覚え書

司法試験の法律科目演習本の感想とか、勉強方法とか書いていくにゃ

番外編:民事系事実認定で使用した書籍の感想

 お久しぶりです。

 今回と次回は、いつもの演習本の紹介ではなく、番外編として修習中に使用した、事実認定の書籍の感想を述べていきます。

  二回試験や一斉起案などで勉強に悩んでる方の参考になれば幸いです。

  今回は民事系事実認定で役立った本についての感想です。

 

①事実認定の考え方と実務(田中豊著・民事法研究会発行・2300円)

 

事実認定の考え方と実務

事実認定の考え方と実務

 

  事実認定の思考枠組みや方法を勉強しました。

 受験生時代から田中豊氏の書籍にはお世話になっています。修習生であれば、すでに「事例で考える民事事実認定」を読み、判断枠組みの四類型を学んだかと思います。その上で、どうやって直接証拠から主要事実を認定するのか、又は間接事実から主要事実を認定するのかについて、構造的な思考方法を学ぶ良い書籍でした。

 この書籍を読む前に、すでに後述の「ステップアップ民事事実認定」や「書証の証拠力」を読んでいましたが、民裁起案を自信を持って書けるようになったのは、この書籍を読んでからで、C評価であった民裁起案が集合修習でB、Aとなりました。

 

 構成は以下の通り。

 第1章 事実認定の前提を成す原理

 第2章 直接証拠による事実認定

  第1節 文書(契約書)による事実認定

  第2節 供述(証人の証言、当事者の供述)による事実認定

 第3章 間接証拠による事実認定

  第1節 間接証拠による事実認定の構造

  第2節 いわゆる間接反証の成否

  第3節 補助事実としての機能

 第4章 事実認定と要件事実論

 第5章 事実認と判決書における表現方法

 

② 事実認定体系(村田歩編著・第一法規出版・各4500円)

 

 

 

  各請求における事実認定上の論点ごとに裁判例を紹介し、どういう場合に、どのような事実が重要なのかを勉強できました。

 読んだのは、集合修習後の選択修習時なので、10月半ばくらいでした。これがとても良い書籍で、もっと早く読んでおけば良かったと思いました。

 契約各論のうち、売買、請負、委任、消費貸借、使用貸借、賃貸借しかないのが悔やまれます。

 売買における当事者確定の重要な考慮要素と消費貸借における当事者確定の重要な考慮要素は異なっているなど、知らないことをたくさん学べました。

 他にも、条文、実体法上の要件、要件事実の記載、さらに経験則の働かせ方も記載があり、起案に活かせる知識がたくさんありました。

 

③ 民事事実認定重要判決50選(磯波孝一他編・立花書房発行・7200円)

 

民事事実認定重要判決50選

民事事実認定重要判決50選

 

  実務上、というか修習起案でよく出題される論点や訴訟の類型について、有名な最高裁判決を解説するものです。②の事実認定体系は広く浅いというところがあり、こちらは重要な類型における考慮要素を集中して勉強したいという方にお勧めですね。

 ただ、値段が高い。金持ちの修習生が多いですが、貸与金で極貧生活をしている修習生も少なくないですから、購入するには勇気がいると思います。私は冷蔵庫とテレビと自宅内のプライバシーを捨てて、購入しました。

 そこまで勧めるなら「事実認定体系」要らないやんって意見もあると思いますが、あっちはあっちで細かい知識を吸収できますので、おすすめです。50選に乗っている論点が一斉起案などで出るとは限らないので、私は読みました

 読んだ時期は、5月頃と11月半ば頃です。

 構成は以下の通り

 第1 総則

  1 権利濫用

  2 心裡留保

  3 通謀虚偽表示

  4 錯誤(動機の錯誤)

  5 民法110条の「代理人の権限があると信ずべき正当な理由」

  6 時効取得

 第2 物権

  7 背信的悪意者

  8 占有

  9 民法186条の所有の意思の判断

 10 登記の推定力

 11 取得時効

 第3 債権

 12 債権者代位権

 13 詐害行為の成否における債務者の無資力及び害意並び受益者の善意の認定

 14 保証

 15 契約締結上の過失

 16 契約の成立

 17 売買契約の成否

 18 履行の着手

 19 消費貸借(成否、弁済の有無)

 20 使用貸借の終了

 21 賃貸借(転貸借)

 22 賃貸借(正当事由)

 23 不動産媒介契約の成立と報酬

 24 預金者の認定

 25 和解

 26 不当利得(受益者の悪意)

 27 不法行為(損害)

 28 不法行為(責任)ー捜査機関が作成した供述調書の信用性

 29 消滅時効

 第4 親族・相続

 30 婚姻を継続し難い重大な自由の認定

 31 民法915条1項の熟慮期間の起算点の認定

 32 相続(遺言の効力等)

 第5 訴訟類型別

 33 書証の成立(二段の推定)

 34 相隣関係(通行権等)

 35 交通(過失、過失相殺)

 36 名誉棄損訴訟における事実認定上の留意点

 37 医療訴訟における因果関係の証明

 38 医療(因果関係・責任)

 39 保険事故(生命保険)

 40 名義貸し(名板貸責任)

 41 法人格否認の法理

 42 株主権の認定

 43 取締役の責任

 44 株価の認定

 45 濫用的会社分割

 46 推計課税の適法性 

 47 労働者生の認定

 48 整理解雇

 49 労災の業務起因性

 50 安全配慮義務

 51 支払不能の認定

 52 DV認定

 53 知的財産権ー著作者の認定

 

 

④ ステップアップ民事事実認定(土屋文昭他編・有斐閣発行・2300円)

 

 ステップアップ民事事実認定

ステップアップ民事事実認定

 

  具体的な事例を前提として事実を認定する、演習形式の事実認定の書籍です。前半は事実認定の方法、後半が演習問題です。

 読んだ時期は、民事事実認定に悩み始めた3月半ばころであったと思います。民事事実認定のおすすめ本として、多くのサイトで紹介されている本です。ただ、私との相性は悪かったです。知識がなかったために、ある再間接事実がどうして間接事実を推認させるのか、よく分からなかったです。ある程度勉強が進んだ今であれば、この

書籍が伝えようとしていることがわかります。

 まぁ、その知識があれば二回試験対策として十分なので、直前期に読み直すことはしませんでした。

 

 構成は以下の通り。これだけ見ると、すごくいい本なんだけどなぁ。今からもう一度読んでみようかしら?

 第1部 解説編

  1 事実認定は?

  2 事実認定の方法の概略

  3 事実認定の具体例

  4 書証(1)

  5 書証(2)

  6 書証(3)

  7 人証

  8 証明度  

  9 事実認定のヒント

 10 事実認定のための証拠収集

 

 第2部 演習問題編

  ①売買代金請求事件ー売主は誰か

  ②保証債務履行請求事件ー契約書は真正に成立したか

  ③所有権に基づく建物収去土地明渡請求事件ー買主は誰か

  ④貸金請求事件ー金銭は交付されたか

  ⑤所有権移転登記手続請求事件ー売買契約は締結されたか

  ⑥請負代金請求事件ー注文者は誰か。

  ⑦売買代金請求事件ー黙示の意思表示による売買契約の成否

  ⑧株主の地位確認請求事件,新株発行無効請求事件ー売買契約は虚偽表示か

  ⑨詐害行為取消請求事件ー慰謝料額が課題か

  ⑩保険金請求事件ー盗難事故の偶発性に関する事実認定

 

 ⑤判例からみた書証の証拠力(大阪地裁民事事実認定研究会編・新日本法規出版・5000円)

 

判例からみた書証の証拠力

判例からみた書証の証拠力

 

  民事訴訟に提出される各種書証について、原則的な証明力を確認した上、いかなる場合に証明力が弱まるのかを詳説しており、原則的な事実認定と例外的な事実認定を学ぶことができます。

 読んだ時期は、5月中頃だったと思います。この書籍を読み、事実認定の着眼点が得られたと思います。いかなる書証で、いかなる事情があれば、当該書証から動かし難い事実が認められるのかがわかるようになりました。その書証の証明力を支える経験則についても説明されており、新たに知った経験則を応用して、実際の事件において提出された書証の証明力を判断することができるようになったからだと思います。

 この書籍も、早いうちに読んでおけばよかったと思います。

 少し多いですが、構成は以下の通りです。

 第1章 総論

  1 はじめに

  2 形式的証拠力と実質的証拠力

  3 文書の種類と実質的証拠力

  4 準文書

 第2章 文書の実質的証拠力

 第1 処分証書 

  1 各種契約書

  (1) 売買契約書

  (2) 金銭消費貸借契約書、借用書

  (3) 保証契約書(保証書)

  (4) 賃貸借契約書

  (5) 業務委託契約書

  (6) 業務協定書

  (7) 出資契約書、入会契約書

  (8) (根)抵当権設定契約書

  (9) 経営指導念書

  (10) 覚書、念書、合意書

  (11) 委任状

  (12) 公正証書(遺言公正証書を除く)

  (13) 和解調書

  2 遺言書

  (1) 自筆証書による遺言書

  (2) 公正証書による遺言書

  3 手形小切手

 第2 報告文書

  1 比較的実質的証拠力の高いと考えられる類型

  (1) 発注書、注文書

  (2) 請求書、催告書

  (3) 領収書、領収証

  (4) 納品書

  (5) 会計帳簿、計算書類等

  (6) 納税確定申告書控等

  (7) 診断書、看護記録等

  (8) 金融機関等による定型的書類

  (9) 買付証明書、売渡証明書

 2 公文書

  (1) 全部事項証明書、登記簿謄本

  (2) 印鑑登録証明書

  (3) 他の事件の判決書

 3 その他

  (1) 議事録

  (2) 手帳、日記

  (3) メモ

  (4) 陳述書

 第3章 準文書の実質的証拠力

  1 図面、構図、地積測量図

  2 写真

  3 DVD、ビデオテープ

  4 録音テープ、音声データ

 

 

  次回は刑事事実認定です。